*演技派*

三姉弟そろっての外食はチープに回転寿司。
管理人のアイデアが貧弱という以外にも、
割り勘するのにはっきりしていていいから、という理由もある。

「‥‥今日は珍しくよく食うなあ、我愛羅」
カンクロウならともかく、いつも食が細い我愛羅の前に
どんどん皿が積み上がって行くのに驚いたテマリが口を挟む。

「いいじゃん、成長期なんだからもっと食えよ、食わなきゃ力出ねえじゃん」
仲間ができたぜ、ようやく男同士がつがつ食える、と嬉しそうなカンクロウ。

「‥‥べつに普通に食ってるだけだぞ」
ちょっときまり悪そうに、それでも口は止めない我愛羅。

さて、皆十分お腹が満たされたようす。

「めいめい出すべきだな、割り勘は明らかに不公平だぞ」
彼女の意見ももっともである。
スタイルを気にするテマリの倍以上の皿が、我愛羅の前にもカンクロウの前にもあるのだから。
「わかってるじゃん、あとで清算すりゃいいんだろ」

自分のクマちゃん財布を覗いていた我愛羅がおもむろに言う。
「‥‥俺が出す」
「「ええっ?」」

2人揃ってのこのリアクションにはわけがある。
我愛羅は立場上かなりの倹約家で通っているからだ。

「‥‥なんだ、人がおごると言ってるんだ。
素直に受けたらどうだ」
「ま、まあ、それもそうだな」
「ああ、んじゃごちそうになるじゃん、サンキュー」
フン、といった顔で我愛羅が店員に呼びかける。

「おい、無愛想!」

こおりつく姉と兄。
店員が気がつかないと見た我愛羅はさらに大きな声で呼びかける。

「おい、そこの、無愛想!」

店にいる人の視線が集中する。
ひとにみられてナンボの風影、一向に気にならない様子。
三度目の正直で今一度大声で叫ぼうとする彼の口をカンクロウが塞ぎ、外へ拉致。
言葉はなくても見事な連係プレーでテマリがレジで清算をすませてしまった。

「何だ、人が出すと言ってるのに‥‥」
「だってよ、オマエ、ああいう時に言うセリフは違うじゃんよ‥‥」
「どう違うってんだ」
「どうって‥‥なあ、テマリ」
言いにくくてテマリに話題をふるカンクロウ。

テマリがカンクロウを睨みつつもなんとか説明しようとする。
「だからさ、無愛想ってのは似てるけど違うんだよ‥‥」
「そうじゃん、無愛想ってのはお前の顔のことで‥‥いてててててっ」
また余計な事を、とカンクロウの耳をつねるテマリ。

「フン、お愛想、だろ」
我愛羅が口の端をあげた思いっきり意地悪な顔で言い放つ。
目が点になる姉と兄。

「お前達に俺に意見する度胸があるかどうか見させてもらっただけだ。
まだまだだな、おごりは帳消し、自分達で払っとけ」
言いたい事を言うと、さっさと姿をくらましてしまった。

「‥‥我愛羅が丸くなったなんて言った奴はだれだよ!?
デマもはなはだしいじゃん!
あれじゃひょっとして前より悪いんじゃねーか」
「‥‥だいたい、本当に意見とか言う問題だったのか怪しいもんだな」
「え?」
「財布がカラだったんじゃないかってことだよ」
「あんのやろ!素直にカネがないといえないのかよ!!」
「‥‥それはそうと、カンクロウ、お前も半分払え」
「えっ、半分?そんなに持ってねえよ」
「財布の中身も考えないでバカスカ食うな!」
「うるせえ、我愛羅につられただけじゃん!」
「お前も我愛羅と似たり寄ったりだよ!とにかく払え!」
「一緒にすんなよ、おれはあんな無愛想じゃねえよ!
だいたい素直に金がないといったじゃん!」

「あの〜、すいません、お客様。
他のお客様が怖がられて、その、出入りが‥‥」

店員の声に見れば店の中も外も困り顔の客の列。

「ははは、わりいじゃん、テマリ消えるぞ」
「あ、コラッ!」
カンクロウはしめたとばかりにトンズラ。

「愛想がいいだけで金払いが悪いんじゃ変わりゃしないよ!
まったくうちの弟どもは!」

テマリはこんなことならもっと食べておけば良かった、
とぷんぷんしながら彼らの後を追うのだった。


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