『秋へ』
水のつめたさといっしょにはっかの芳香と独特の味が口の中に広がった。
氷に入ってたんだな。
子供の頃はこのツンとした感じが大嫌いだったんだが‥‥まあ、飲めないこともないか。
いつだったか、歯磨きみたいじゃん、といったら、呆れられたっけ。
‥‥フン。
体にこもった夏の暑さをなだめるような風が時折吹いてくる。
気の早い樹木がハラハラと落ち葉を散らす。
苦手だ、ほかのどの季節の変わり目よりも今のこの時期が。
季節ひとりが先に進んで、体は楽になっても心には夏の残像ばかりが溜まってく。
ため息がひとりでに出る。
気がつくと、似たような笑顔を探してる俺。
蹴っ飛ばすみたいに席をたつ。
指定席だったとこに知らねえ誰かが陣取ってやんの。
後悔、怒り、悲しさ。
俺を追っかけてこようとするネガティブな気持ちを振り払うかのように歩を早める。
ドアをくぐると、まだまぶしい戸外。
だけど、光に生気がない。
‥‥俺と一緒じゃん。
‥‥仕方ねえな、カラ元気でもいつかは本物になる、と思っとくしかない。
あばよ、夏の俺。
*閉じてお戻り下さい*