THE・逆チョコ
放課後の帰り道、カレシならぬ友達にプレゼント。
「トモチョコ、もらって」
思い切り怪訝な顔をされる。
「でも
ってば、これ本当は彼にあげたかったんでしょ」
さすが長い付き合い、図星。
「いいの、いいの、どうせ来ないってわかってたんだし、もらってやってよ」
そうとでも言わなきゃ気持ちの整理ができやしない。
「じゃあ・・・・ありがたくもらう、元気だしてね、
」
「ありがと、じゃね」
「バイバイ」
鞄がぺったんこになって、気持ちもぺしゃんこ。
空は曇天、気持ちも雨降り寸前。
忍者のカレシなんか持つもんじゃない、こんな大切なイベントにも欠席するんだから。
クリスマスもそう、一旦遠征なんかでかけたらなしのつぶて。
・・・・なんのために一年前決死の覚悟で告ったんだか。
足下を見つめて歩いてたら、目の前に立ちふさがった空き缶ひとつ。
・・・カンクロウの好きなコーラ。
むかついて思い切り蹴飛ばした。
「いてっ」
ぎょっ、誰かに当たった!アホコーラめ!!やっさんだったらどうすんのよ?!
「す、すいません!」
目を上げてフリーズ。
「おい、おい、当て逃げ?」
空き缶を拾い上げた学生服はニヤけたカンクロウの形をしている。
「俺、そんなに長い事留守にした?
ひょっとして顔忘れた、とか」
忘れるわけないでしょうが!
10代で好きな人の顔忘れるほどボケてないわよ!
なんか気の利いた台詞を返してやりたくて黙ってたら、頭をこつん、とやられた。
「そんなに睨むなよ。
ちゃんと今日は会えるように頑張って帰って来たんだからさ。
記念すべき日だもんな?」
そう、記念すべき日。
一年前、心臓が自分の体のどこにあるか他人にもばれるんじゃないか、というぐらい緊張しながらチョコ渡した日。
だめもとだと自分を鼓舞しながら、一生分の勇気と根性を絞り出して告った日。
びっくりされたあと、照れくさそうな笑顔で「サンキュ」って受け取ってもらえた日。
「俺ってせっかちだから」と、その週末にすぐにデートに誘ってもらって、アクション映画観たっけ。
そのあとに引っ越すって聞かされて、もう終わりなのかとうろたえたら、もともとこの学校にいるのも任務だとかなんとか説明されたんだ。
学生で仕事があるなんて、この不況下にうまいことやるねえ、なんて言ったら呆れながら笑われたなあ。
「そんな楽しいもんじゃねえよ」
・・・・確かに、甘かったわ。
平均して一ヶ月に1回も会ってないんじゃないの、これじゃ社会人の遠距離恋愛とかわんないじゃない!高校生の恋愛じゃないわよ!!
頭の中でふつふつとわき上がる思いに棒になってたら
「お〜い、
ちゃん、今日って2月14日だよな?」
脳天気な声に我にかえった。
「そうよ・・・・何が言いたいの?」
「初心わすれるべからず、なんかくれる予定とかない?・・・・とか言ったら怒る?」
ご丁寧に手まで差し出しやがった。
「あ、怒った、やっぱ」
当たり前じゃない。
なんでもうちょっと早く現れてくんないのよ?!
あげちゃったわよ、あんたあてのチョコ、結構苦労して作ったチョコケーキ、トモチョコにしちゃったわよ?!
「もうっ、来るのが遅いんだもん!」
精一杯低音ですごんだつもりだけど、惚れてる弱みね、芯まで怒りきれない。
逆に悲しくなっちゃった。
せっかっく会えたのに・・・・・本当は渡したかったのに。
「おいおい、そんな悲しそうな顔すんなよ。
そんなつもりで言ったんじゃねえって、冗談じゃん。
くれる予定ないなら、はい、ドーゾ」
何がドーゾなのよ、と顔あげたら、さっきまで空っぽだったカンクロウの手に真っ赤な小箱。
・・・・手品ですか?
まじまじと見ていると
「
、お前な、恥ずかしいから早くもらってくんね?」
私宛に?これって、これって
「逆チョ・・・ふがっ」
「ばか、そんなでかい声でいうなって、この道結構人通りあるんだからさ」
慌てたカンクロウに口を塞がれる。
通り過ぎる人が怪訝な顔をしたり、カンのいい人はにやにや笑いながら通り過ぎて行く。
リボンまでかけてある・・・・
なんかこの箱から遠赤外線がでてるみたいに、ホカホカとあたたかさが伝わって来る。
「・・・嬉しい。ありがとう」
へっ、って顔してるけど照れてるのがわかる、それぐらい読めるほどにはキャリア積んだわ。
「これって、お手製?」
冗談のつもりで聞いたら
「当然じゃん、こんなもん恥ずかしくて買いに行けるかよ」
マジですか?!
「器用なんだね〜、チョコって結構扱いが難しいじゃない」
「ふん、毒の調合に比べたら・・・・なんでもねえ」
「は?」
「何でもないって、ま、俺って器用だからな」
出た〜、根拠のない自信。
「お菓子つくれるぐらいなら、ご飯とかも得意とか」
「まあな、兄弟の中じゃ一番うまいぜ、絶対」
へえ、多分、じゃなくて、絶対、なんだ。
「じゃあ、今度お弁当よろしく?」
「おいおい、弁当男子はケータリングはやんねえんだよ、自分専門」
「ちぇ〜っ」
「ホワイトデーはよろしく」
「え〜っ、あれって女の子がもらう日なんだよ」
「いいじゃん、俺が今日あげたんだから、次はもらう番だろ。
トモチョコで練習したんだろうから、期待してるじゃん」
「え、あげたの見てたの?」
「いや、でもまあ
が俺に用意してないってことはないだろうし、今持ってないってことは誰かにやったんだろうな、と」
・・・・ほんっと、自信家なんだから。ここまでくると嫌みを通り過ごして清々しいわ、いっそ!
「ね、ちょっとお茶してこうよ」
「え、でも制服だろ、お前見つかったらまずいじゃん」
「いいよ、次いつ会えるかわかんないもん。ハンバーガーおごったげる」
「あ、そうなの、じゃあ遠慮なく」
「その間私はこのチョコケーキをじっくり鑑賞させていただくわ」
「え、店で開けんの?!ちょっとソレは・・・」
「自信作なんでしょ?いいじゃん、さ、行こ!」
カンクロウの足音を背中に感じながら走りだす。
重たくたれ込めた2月の空がうっすらと明るくなって、ぼんやりと太陽の形が見えた。
春は、もうすぐ。