劣等感
またか。
  3代目が存命中はさほど感じたことのなかった、この、なんともいえないいやな気持ち。
  年をとるごとに3代目の偉大さが身を以て感じられるようになり、それにつれて、この気持ちも大きくなって行く。
  嫉妬と劣等感。
  嫉妬はまだいい、それをバネに頑張れるから。
  だがこの劣等感という奴はなんの足しにもなりゃしない。
  負けを認めた時からつきまとう感情でしかない。
  言葉に出して言わなくても、木の葉の里では誰だって、木の葉丸が3代目の孫だということは知っている。
  アカデミー生として様々な雑用や実習に頻繁にかり出されるようになり、そんな時に、決まって聞かされることば。
  「ああ、3代目のお孫さんですね」
  他意はない場合でも、もう枕詞みたいにしか聞こえない。
  孫は凡人だ、という下の句の。
一見ただの子供の間の小競り合い。
  あれを言っただの、言われただの、の。
  でも今日のけんかはなかなか決着がつかず、とうとう大人が呼ばれた。
  双方とも目の周りを青くして、口は切れてひどい形相だ。
  「いい加減にやめろ、もう十分じゃん」
  講師の声が耳に入っているのかいないのか、木の葉丸はまるでこちらを見ようともしない。
  敵意をむき出しにして相手に飛びかからんばかりだ。
  友達がそれぞれをはがいじめにして、何とか抑えている。
  「お前なんか、どんなに頑張ったって、じいさんを超えられるもんか!」
  その挑発の声が合図になって、制止を振り切った木の葉丸が相手に飛びかかった‥‥
  が、ふたりとも宙吊りになっている。
  青白く光るチャクラ糸が二人の手足を縛っていた。
  「黙れ」
  有無をいわせぬ声。
  「でも‥‥」
  「黙れって言ってんだよ!」
  カンクロウは二人同時に反対方向へ力任せに投げ飛ばした。
  砂煙を上げて地面に転がる二人。
  その衝撃で二人とも息ができない。
  「子供はな、親を選べねえんだよ、じじいなんてなおさらじゃん。
  つまんねえことぬかしてっとチャクラの糸で簀巻きにして逆さ吊りにしてやんぞ!
  木の葉丸、お前もいちいち反応すんな!
  心配しなくてもこれからも同じこと言われて生きてくんだ、いやなら木の葉を出てくしかねえじゃん!
  さあ、けんかは終わりだ、教室に戻れ!」
  カンクロウの言葉が嘘でないと感じた少年はペッとつばをひと吐きし、びっこをひきひき無言で教室へ戻って行った。
  木の葉丸に駆け寄ったウドンとモエギが彼の様子を心配そうに見守る。
  「大丈夫?木の葉丸ちゃん」
  「ずいぶん派手にけんかしたね〜」
  「聞き流せることとそうでないことがあるんだ、コレ‥‥いててて」
  「センセーも容赦ないね〜」
  モエギが遠ざかるカンクロウを見遣りながら意外なことを言った。
  「あのヒト、いいとこあるわね。」
  「なんでだよ、コレ!
  以前おれのこと半殺しにしたんだ、コレ。
  今だって全然容赦なかったぞ、コレ!」
  打撲箇所をさすりながら木の葉丸が言う。
  「バカね、木の葉丸ちゃんのこと、かばってくれたんじゃない。
  知ってるでしょ、カンクロウセンセーのお父さん‥‥風影よ。
  弟の我愛羅センセーだって、次期風影候補なんだって」
  ‥‥そうか。
  アンタも劣等感を、この苦い感情を噛み下して生きている一人なんだな‥‥。
  変な隈取りの陰にある素顔がちょっと見えたような気がした。
  まけるもんか。
  他人がなんと言おうと。
  こんなとこで、この劣等感なんかに足引っ張られてる場合じゃないんだ。
  教室に入る。
  今度はカンクロウの講義だ。
  教卓からニヤっと黒装束が笑う。
  「よー、もう回復したのか、3代目のお孫さん」
  木の葉丸もニヤッと笑い返す。
  「ああ、もう平気だ、コレ、4代目風影ご子息のカンクロウ先生!」
  フン、という顔で口をゆがめて笑うカンクロウと、ニシシと笑う木の葉丸。
  授業開始の合図が鳴り響いた。
閉じてお戻り下さい
蛇足的後書:つじつま合わせ〜は大変でござんす〜っと。
  アニメでお見送りのとき、木の葉丸がカンクロウにfriendlyだった理由がいりますよね〜、なんつって。
  劣等感は絶対あると思います、カンクロウの中に。
  でも、それを抱えながらも前進あるのみの彼に強烈に惹かれます。