指が覗く手袋。
カンクロウはこの指先がないタイプの手袋を、まだ傀儡を使いだして間もないころから今に至るまでずっと使い続けて来た。
おそらくこれからも。

傀儡使いに絶対に必要な技能は、チャクラを糸状にあやつる力だ。
しかし、チャクラは普通手のひら全体ににじみ出るので、糸状に放出するにはかなりの訓練と才能を要する。
傀儡師になると決めて以来、カンクロウはこのところ、ずっとこの訓練に掛かりっきりだった。
何回やっても、思うように傀儡へチャクラを投げられない。
しかしこれができなければ傀儡使いへの道は閉ざされてしまう。
むだに手のひらを腫れ上がらせる日々が続く。
傀儡の仕組みやカラクリ、仕込む毒の調合などの知識はなんの苦労もなく頭にはいったのに。
肝心の糸が作り出せない。
焦りと疲労でくたくたになって、とうとうある日修行をさぼった。
「傀儡なんてもうたくさんだ、見たくもねえじゃん」
一日砂の里のはずれにある森の中を駆け回って遊びほうけた。
帰宅したら珍しく‥‥いつもはいない父親がいる。
じろっとカンクロウを目の端で捕らえる。
多分バキからカンクロウが修行をさぼった旨報告を受けていたのだろう。
が、だからといって謝るタマのカンクロウではない。
キッと睨み返すとさっさと自分の部屋へ向かう。
「カンクロウ」
すごみのある声が後ろから聞こえて来た。
「傀儡師になるつもりなら、手を、指を粗末にするな。
命の次に大事にしろ」
「わかってるよっ」
振り向きもせずに言い返し、部屋の戸をわざと大きな音をたてて締める。
「なにが、指を大事にしろ、だ。
んなことは百も承知じゃん‥‥」
でも、とカンクロウは思った。
いくら指を大事にしたって‥‥
肝心の傀儡を操る糸がつくれないんならどうしようもねえじゃんか。
自分の手を改めて見ると傷だらけだ‥‥
親父はめったに顔も会わさないくせにすばやくこれをみとったに違いない。
そう思うと、なんだか見透かされているようで悔しいような、そのくせ自分のことを理解してくれているのだと嬉しいような気がした。

ふと机の上をみると、手袋が一対おいてある。
「なんだよ‥‥ずいぶんボロい手袋だな。」
カンクロウのサイズではない。
大きすぎる。
誰のだろう、といぶかりながらなんとはなしにはめてみる。
革製とはいえずいぶん使い込んで指先は穴だらけだ。
ぷん、と馴染みのタバコのにおいがした。
「おやじのじゃん‥‥」
さんざん木登りをしたり、川で遊んだりしてひっかききずだらけになった指が覗く。
今日はさぼっちまったな、と少し苦い思いが脳裏をよぎる。
もうほとんど反射でしてしまう。
手のひらにチャクラを集めてみる。
ぼうっとした色が手袋から漏れ見えた。

「‥‥あっ!」
指先にチャクラを集めなければならないのなら、この手袋の指先の穴に神経を集中させたらどうだろう。
が、なかなかそう簡単にはいかなかった、くたくたになるまで遊んだあとの疲労した体ではなおさらだ。
しかしカンクロウは諦めなかった。
今度は絶対うまく行くという確信があったのだ。
部屋の中で、自分が趣味で集めたカラクリ人形めがけて、チャクラの糸を練り上げては投げる。
少しずつ、少しずつだが、糸が伸び始める。
前回より1センチ長く、今度はもう2センチ長く、次は‥‥
夢中になっていたら昼間けがした人差し指の先が切れて出血していた。
「ふん!」
冗談でその血を吹き飛ばすような感じで一気に神経をそこに集中させたらスコン、と糸がのびて壁に置いたあった人形に繋がった!
これだ!この感じ!

窓の外が白んで来るころになって、ようやくカンクロウはふとんにもぐりこんだ。
しっかりと手袋を手にはめたまま。
滅多に笑わない父親が、すこし笑った夢を見た、ような気がした。

閉じてお戻り下さい

蛇足的後書:『カンクロウ好きに15のカラクリ』に挑戦です。
『指』というより『手袋』みたいになってしまいましたが‥‥
父親は見てないようでも息子のことを気にしてるもんだと思うので、風影の影をちちらつかせてみました(どうせ原作ではこのあたりの話はやってくんないっしょ)。
カンクロウ7〜8歳ごろ、生意気盛りという設定です。