学生

は、こんがらかったヘッドホンのコード相手に苦戦していた。
「あ〜あ、もう、これだから、はやくコード巻き取り式のヘッドホンが欲しいのよ。
いつだって、かばんの中でからまっちゃうんだから‥‥」
教科書のぎっしりつまったトートの中で毛糸玉のようになってしまっているヘッドホン。
すっと、横から誰かの大きな手が伸びてきて、からまったコードの固まりを取り上げた。
「え、ちょっと、何するの!?」
「ほれ」
本当に一瞬だったのに、広げられた手の上では、コードが見事にきれいになっている。
おどろいて、声の主を見上げると、白目がちの薄い緑の眼と傲慢そうな高い鼻をした、いかつい系の少年が立っていた。
より頭1つは楽に背が高い。ちょっと長めの髪の毛がつんつん逆立っている。
「あ、ありがとう。」
驚きつつも律儀にお礼をいってしまう
「どういたしまして。あんた、しょっちゅうコードからましてるみたいじゃん」
小馬鹿にしたような声。
「え、なんでそんなこと知ってるの」
この顔に見覚えはないのに。
「いつもここ通ってるだろ。
で、この木の下で必ず、ヘッドホンつけようとして長いことコード相手に戦ってるじゃん。」
全くその通りだった。
「やだ〜、誰にへんなとこ見られてるかわかんないわね。
でも、アナタは随分ともつれたものを上手にほどいちゃうのね」
普段は人見知りをする方なのに、今はこの少年のペースにはめられたせいか 自身も驚くほど躊躇なく言葉が出て来る。
「まあ、な。ほどいたり、巻き付けたりは俺の専門だからな」
「専門?」
「おっと、もう行かなきゃだめじゃん。
俺カンクロウってんだ。あんた、なんて名」
「あ、あたし?
完全に相手のペース、でも別に嫌な気はしないから不思議だ。
「じゃ、またな、
初対面の人間を呼び捨てにするなんて、と は思わなくもなかったけれど、不思議とそれほどいやではなかった。
馴れ馴れしいというより、そういうことに無頓着な性格なようにおもわれたから。
実はちょっとワイルドな見た目もけっこう 好みだったりしたのだ。
「つぎはいつ会えるかな」
はカンクロウとの再会を楽しみに、ほどいてもらったヘッドホンで音楽をききながら帰路についた。

期待を裏切り、カンクロウは翌日もそのまた翌日も、それどころか1週間以上 の前に姿を現してはくれなかった。
「ちぇ、なんかすぐまた会えるみたいなかんじだったのにな」
実際はなにも約束などしていないのだが、 あの単刀直入っぽい性格から、すぐ会えるだろうと が勝手に想像をふくらませていたのだ。
「使わないでおこうと思ってたけど、もういいや」
なんとなく腹立たしいような気持ちで、新しいヘッドホンを取り出す。
コードが巻き取り式になったタイプ。
いつもコードに苦戦しているのをみかねた友達が譲ってくれたものだ。
これを使ってしまうとカンクロウと会えなくなりそうな気がした は、今までげんかつぎをして使わずにいたのだが、もう今日で10日目、いい加減待ちくたびれたようだ。
シュルッ
「わ、やっぱり便利だなあ」
クリップを耳にかける。
正確にはかけようと、した。
が、これが慣れてないためか、なかなかうまく耳にかからない。
が眼鏡をかけているのもよくないようで、眼鏡のつるがじゃまをしてうまく耳にフィットしてくれない。
「もう〜」
かけたりはずしたりしている間に、今度は の長い髪の毛まで参戦してきてしまった。
コードがへたに巻き取り式になっているのもまずかったようで、なにかの拍子にシュッと、コードが収納され始めた。
絡まった髪の毛が引っ張られる。
「いたたたたっ」

ブン
と、なにか軽いうなりのような共鳴音がきこえ、さらさら、ぱさっ、はらり。
そんな擬態音がしてきそうな感じで、あれだけからまり、もつれあっていた髪とコードと眼鏡とクリップがすんなりそれぞれの場所に落ち着いた。
「うそみたい‥‥。カンクロウ、さん?」
あたりをきょろきょろ見回したがカンクロウの姿はなかった。
「いないのか‥‥彼だと思ったんだけど。
なんかわかんないけど、助かっちゃった。」
はさっき引っ張られた髪の毛の付け根のあたりをさすりながら、独り言を言った。

実は の勘通りカンクロウはそばにいたのだが、何分長期任務の帰りで前回とはまるで違うスタイルをしていたし、かなり汚れていたので姿を現さなかっただけだった。
ちょこっと の姿を見ておくだけにするつもりだったのだが、いつもよりひどいこんがらがり様に、ついチャクラの糸でおせっかいしてしまったのだ。
『全くどんくさいヤツじゃん。
見た目はずいぶんしっかりしてそうなのにな。』

その通りだった。
はちょっと見、非常に利発そうな印象を与える。
サラサラしたロングヘアにきりっとした眉、かしこそうな瞳。
ちょっとだけ上をむいた鼻が愛嬌を添える。
眼鏡をかけているので、よけいにしっかりして見えた。
ところが。
道を歩けば、つまずいたり、転んだりは日常茶飯事、こないだは夜道で気が付かずに溝におちてしまった。
ひどい方向音痴で、同じ場所に行くのにとんでもなく苦労する。
忘れ物を取りにいっても、違うものを持って帰ってきたり、買い物でもメモなしではかんじんなものはいつまでたっても手に入れることができない。
人の顔と名前がなかなか一致せず、やっと名前をおぼえたらもう1年がおわっている。
眼鏡にしているのだって、コンタクトだと、落とすわ、やぶるわ、流してしまうわで、何枚スペアがあっても足りないからだ。
勉強ははまあ、運良く標準以上だったから、教室の中ではこんな を知る人はほとんどなく。
そのかなりのおっちょこちょいぶりを知ったとたん、外見とのギャップに皆驚く。
彼女もそのことは結構気にしているのだが、だからどうなるものでもない。
だんだん、人の期待に応えるのがしんどくなってきて(もしくは期待を裏切る、と言うべきか)、ごく親しい友人以外はあまりつきあわず、またそのせいで、優等生のとっつきにくいヤツというありがたくないイメージをもたれてしまっていた。
だからこそ、遠慮ないカンクロウが気になったのかもしれない。
しょっぱなに、どんくさい素の自分をみてもらえたという安心感があった。
失敗を取り繕わなくても、笑い飛ばしてくれそうな気がした。

『何妄想してんのかしら、あたしったら。
たった一回しか会ったことないのに。』
もう夏休みだというのに、新しいクラスになじめず、なんとなく寂しい思いをしている は知らない間に人恋しくなっているのかもしれなかった。
『そういえば、結んだり、ほどいたりが専門って言ってたけど‥‥
看護士かな、包帯を結んだり、解いたりするし。
でも、そんなやさしそうなかんじには見えなかったなあ。
いいひとだとは思うけど。
ほかにそういう専門分野って、何があるかなあ。』

考え事ですっかり頭がいっぱいになっていた は対向車に気が付かなかった。
「危ない!」
体をがしっと抱きかかえられて、素早く道の端の方へ移動させられた。
一瞬何のことかわからず、呆然としていたが、正気に戻ると
「あ、ありがとうございました。」
大いに恐縮して頭を下げ、態勢をもどすと、あれ、なんかかわったコスプレ野郎がいる。
黒装束に身を包み、頭にはねこみみつきの頭巾、顔は隈取りである。
でもなんか見たことあるような雰囲気だ。
眼が、カンクロウの瞳だ。
「え〜!!!カンクロウさん????」
実はこれはカンクロウの変わり身というか、カラスだったのだが。
「あの、カンクロウさんよね?」
はそんなことなんかわかるはずもなく、一生懸命話しかけていた。
と、突然、本体が走ってきた。
「大丈夫だったか?」
あっけにとられる
今自分の前にいるカンクロウはごく普通の青年の格好をしている。
カンクロウが2人‥‥?!
「あ、あの、カンクロウさん?よね?」
ノーマルな(格好の)カンクロウに向かってとりあえず話しかける
「そうだよ、見りゃわかるじゃん」
「なんで二人もいるの?双子なの?」
「ちっげ〜じゃん。これは分身」
言うが早いか、カンクロウはカラスをもとの姿にもどし、あっという間にテーピング(?!)してしまった。

「☆?☆???」
カンクロウが瞬時にして姿を変えてしまったことと、一瞬見えたカラスのけっこうグロい外見、および、カンクロウのテープさばきの見事さに、 は混乱のあまり言葉が継げない。
「あのな、俺は忍者なんだよ、で、これはおれの傀儡で変わり身の術使って分身にしてたんじゃん。
なんか今日はいつにも増してぼーっとしてて危なそうだったから、 のこと監視させとくためにさ。」
監視とは、 も随分なめられたものである。
まあ、そのおかげで命拾いしたのだが。
しかし、肝心の はまだ状況がはっきりつかめていない。
「あの格好は?」
「ああ、あれは任務用の衣装じゃん。
普通の格好じゃ動きにくいし、戦闘モードにきりかえにくいからな」
テーピング状態のカラスでは普段着にマッチしないので、へんなことにこだわるカンクロウはなにやら楽器入れのようなケースにしまい込んでいる。
「じゃあ、あなたが本当のカンクロウさんなんだ‥‥」
「そーじゃん、最初っから言ってるじゃんか。
ついでに『さん』はつけなくていい」
さん付けに慣れてないカンクロウが断りを入れる。
「だってあんな格好のカンクロウさん、初めて見たし、変わり身なんてもちろん知らなかったし、びっくりしたんだもん」
しかし、軽いパニック状態の はカンクロウの言葉をよく聞いてないようだ。
「あんまり一般的なファッションじゃないのは確かじゃん」
受け答えしながら、カンクロウも内心驚いていた。
いままで瞬時にして、忍装束姿のいわば表のカンクロウと、普段着の裏のカンクロウを同一人物として結び付けた人間はいなかったからだ。
のやつ、どんくさそうだけど、本当は頭キレるらしいな。』
そんなカンクロウの独り言など知る由もなく、 はしばらく黙っていたあと、ぽつりともらした。
「いいなあ、2通りのイメージ使い分けてるなんて。
わたしもそんなことができたらいいのに‥‥」
こういう反応をした人間も初めてである。
カンクロウは以前にまして、 に興味がわいてきた。
「な、ちょっと、お茶でもどう?
ひさしぶりだし」
カラス、いや、楽器ケースを肩にかけながらカンクロウが に言う。
(こ、これって、デートのお誘い? わお、嬉しい!)
「うん!」
なんのてらいもなく は満面の笑顔で答えた。
その無邪気な向日葵のような笑顔に、カンクロウがかなりグラッときたのは言うまでもない。

「‥‥で、どんくさい自分と、他人が描いてる のイメージとのギャップに悩まされてるってわけじゃん」
「そう」
2人はオープンテラス形式のカフェにいた。
ここは通学路に面した学生ご用達の店で、明るい雰囲気とひろいテラスが人気のデートスポットだ。
今日は学校が終わり、夏休みがはじまるというので、なんとなくうきうきした空気が店全体に漂っている。
任務あけでいささかくたびれモードのカンクロウは目をさますべくアイスコーヒーを、 はオレンジジュースを飲んでいる。

ストローで氷をぐるぐるかきまぜながら、 は思う。
『なんで、カンクロウさんには平気でこんな話できちゃうんだろ。
あたし、結構人見知りする方だと思ってたんだけどなあ。』
「で、 はどっちなんだよ」
「え?」
「どっちの が本物なのかって、きいてるんじゃん」
カンクロウがいきなり核心に切り込む。
「どっちも、こっちも、あたしはあたしで、‥‥‥」
でも言いながら、本当はそうじゃない、と思う
「どんくさいのがあたし、かな、やっぱり。
カンクロウさんみたいに二通りの自分があればいいのにな」
「本物の のままでいいじゃん」
カンクロウは背もたれにもたれかかりながらあっさり言う。
「良くないわよ、みんなわかってくれてないもん。」
ぐっと姿勢を前のめりに直し、 の目を見据えてカンクロウが言う。
「あのさ、人が自分のこと全部分かってくれると思うなんて、甘すぎるぜ。
驚かれたっていいじゃんか、それで友達じゃなくなるようなヤツはそこまでのヤツ、うわべだけ仲良くしたって意味ねえじゃん。」
「でも‥‥」
「本当は が、自分を直視できてねえんじゃないの」
(ドキッ。)
「こんな自分は自分じゃないって、他人の眼に映るかっこいい自分を自分と思いたがってるだけじゃねえか」
(うわ‥‥そ、そうなのかな‥‥)
「だから、イメージこわれんのいやで、友達付き合いも疎遠なんじゃん。」
(言い返せないってことは、図星っぽい。)
「格好つけてないで、そのまんまの でいいのによ。
別に思ってたイメージと違ったって、へー、と思うぐらいで、かえってカワイイじゃん」
ニヤニヤするカンクロウ。
(え、カワイイ?)
ボンッと効果音がきこえたかどうかはナゾだが、 は真っ赤になった。
『ありゃ、真っ赤になっちまったじゃん。
ホント、カワイイな、こいつ』
コーヒーを飲み干すと、苦みにちょっと顔をしかめながら、カンクロウは続けた。
「それに基本的に は頭いいみたいだしな。
忍装束のオレみて、一目でオレとわかったヤツはお前が初めてじゃん。
本当のばかならどうしようもないけど、まあ、 はそのギャップがいいとこなんじゃねえの。
あんま、意地張らないでそのまんまでいたらいいじゃん」

「そ、そうかな‥‥」
オレンジジュースに手を伸ばしたとたん、 の本領発揮。
グラスを引っくり返した。
「きゃー、ごめんなさいっ」
急いでおしぼりで拭こうと立ち上がると、椅子が倒れ、椅子にかけてあった のトートバッグが机にあたり、カンクロウのグラスまで倒れた。
メニューまでびしょびしょだ。
「‥‥ぶっ、‥‥お見事じゃん、はははは」
「うわーん、ごめんなさい〜、もうやだ〜」
はうろたえるが、カンクロウは反対に笑いが止まらない。
「いいって、いいって、気にすんなよ。
おれのまわりには みたいに楽しいやついないから、残念じゃん」
「楽しくなんか、ないわよっ。
‥‥じゃあ、どんな人なの、カンクロウさんのお友達って」
机を拭きながら が尋ねる。
「まあ、食うか食われるかの世界だからな、学校行ってるわけじゃなし、友達っていうか油断できないやつばっかだな」
友達ねえ、と内心違和感を感じながらも の質問に答えてやるカンクロウ。
「ああ、忍者だもんね‥‥
そうだ、カンウロウさん、巻き付けたりほどいたりが専門って言ってたけど、それと忍者でいることと、関係あるの?」
「え〜、そんなこと言ったっけ。
まあ、おれは傀儡師だからな、糸つないだり、傀儡をかくしとくのにぐるぐるまきにしといたりするから、どうしても必要な技術じゃん」
「ふう〜ん。
傀儡って、さっき見た‥‥あんまりかわいくは、ないわね」
「忍具がかわいくてどうすんだよ。驚いてもらわなきゃ意味ねえじゃん。」
カンクロウにしてみれば世界が違うと考えもこうも違うか、とおかしくて仕方ない。
「そっか‥‥でも、本当に見事なテープさばきだったわ〜、びっくりしちゃった。
あんな技術があるなら、からまったコードほどくぐらいなんでもないはずよね。
‥‥ねえ、忍者の学校って、あるの」
あくまでも忍びの世界に自分のスタンダードをあてはめようとする らしい質問だ。
「学校か‥‥。ここの砂隠れではないな。少数先鋭の師弟制だからさ。よその里じゃあるけどな」
「わあ、マンツーマンなんだ」
「ていうか、生徒3人に教師1人だよ。」
だんだん のペースに巻き込まれるカンクロウ。
「じゃあ、その人たちが友達になるの」
「いや、違う。こいつらは俺の姉弟じゃん」
「あ、姉弟いるんだ、3人なの」
「そ。上と下にはさまれて苦労してんだよ、俺は」
これはどうやら、本音らしい。
「へえ〜、大変なんだね、でも、あたし一人だからうらやましいな」
にやるよ、のしつけてさ。
姉貴は人のこと押さえつけるし、弟はやけに威圧的だし、真ん中はなにかとソンじゃん」
「ふ〜ん、年も近いんだね、きっと。」
「姉貴が年子で16、弟が13だ。」
沈黙。
「うっそ〜!!!!カンクロウさんって、私より2つも年下なの〜!!!!信じらんない!!!」
「どうしてだよ、そんなにオレ、老けてね〜じゃん」
「いや、そういうことじゃなくて、なんか分析力あるし‥‥」
「忍者やってりゃ、誰だってそうなるじゃん。
だいたい、おまえが勝手に誤解してたんじゃん、いちいち「さん」付けするし。
付けんなって言ってるのに」
もともと、 はどちらかというと小柄で、幼く見られがちだ。
一方のカンクロウは周知の通り、いかつくて態度もでかいので、年上に見られることが多い。
2人一緒にいれば、誰でもカンクロウが年上だと誤解することはほぼ確実だ。

2人の頭の中。
:私ってば、2つも年下の子に頼っちゃって、情けないと言うか、なんていうか‥‥
でも、本当に年下とは思えないんだもん。
精神年齢でまけてるってことかな、いきなり呼び捨てだったし‥‥しかも私が年上だって知っててでしょ‥‥
カンクロウ:なんなんだよ、2つぐらいなんてことないじゃん。
忍者なんかやってたら、いつまでも子供子供してられねーもんな。
こんなことで騒ぐこと自体ガキの証拠じゃん。
しかし、こいつといるとなんかリラックスしちまうじゃん。
兄弟関係なんて今まで他人にしゃべったことないんだけどな。

急に訪れた沈黙。
夏の午後。
濃い緑の木々に囲まれたテラスは緑陰に覆われ、ときおり、木漏れ日があちらこちらできらきら光る。
ちょっと汗ばむ陽気の中、一陣の風がさーっと2人のいるテラスを吹き抜けていく。
の長い髪の毛が風にあおられて、顔にかかる。
がそれを手でよけようとするより早く、カンクロウがすすっと指を動かした。
はらり、と、髪がもとどおりの位置におさまる。

「!!これ!!やっぱり、あれもカンウロウさ‥‥えへん、カンクロウ、だったんだ」
「え?ああ、あん時か。
無意識にやっちまったんじゃん、あんまり激しくもつれてたから」
「すごいね‥‥だって、髪の毛なんてすごい数なのに、それをこんな風に間接的に動かせるなんて」
「なんなら、全部逆立ててやろうか」
ニヤリと不敵な笑みをもらして手をひらひらさせるカンクロウ。
「ちょ、ちょっと、やめてよ」
あわてて、頭をおさえる
「ば〜か、マジにすんなよ。お前って、からかいやすい奴だな」
ぶー、とふくれる
「でも、一体どうやって、そんなことができるの」
「チャクラって、わかるか。
精神エネルギーなんだけど、そいつを糸みたいにして、目標物と俺の指とのあいだに張るんじゃん。
あとは、まあ、操り人形みたいなもんだな。」
「す、すごい‥‥じゃあ、一人で人形劇とかもできちゃうね」
「はあ?!」
「ほら、よく劇団ナントカの公演とかあるじゃない、普通は大勢でやるけど、カンクロウなら一人芝居できちゃうね」
「‥‥‥まあ、な」
何考えてんだ、コイツ、という顔のカンクロウ。
「あと、ねころんだまま、いろんなもの取っちゃったり、ほら、冬ならコタツから出なくてもいいじゃない。
わあ、すんごい便利だね」
『なんか激しく誤解してるじゃん、 のやつ?
これって、戦闘のための技術なんだけどな‥‥』
お化け屋敷で人をおどかすバイトができるだの、初詣で高いところから撒かれる縁起物を独占できるだの、いかにカンクロウの技が便利かで妄想を繰り広げる に、カンクロウは呆れる一方、ほほえましくも感じていた。

「だいぶおそくなっちゃった。ごめん、仕事帰りで、疲れてたんでしょう」
「いいって、全然違う世界の話聞けて気分転換になったしよ」
「‥‥調子いいこといっちゃって〜、ど〜せ学校のはなしばっかで退屈だったんでしょ。
途中で時々居眠りしてたくせに〜」
「まあ、いいじゃんか。 の声が子守唄みたいで気持ち良かったんだよ」
ニヤリ。(とカンクロウ)
カーッ。( 赤面)
実際カンクロウは何度か居眠りをした。
忍者が居眠りをするというのはまず、ありえないことで、いかにカンクロウがリラックスしていたか、という証明である‥‥
気が緩んでいた、とも言えるが。
「送ってくじゃん、どっち?」
「あ、ありがと〜」

とりとめのない話を がしゃべり、カンクロウが適当につっこみを入れながら帰る夕暮れ時。
その間にも、鞄をおとしたり、けつまづいたり、電柱にぶつかりかけてカンクロウに助けてもらったり、いそがしい であった。
『ああ、こんなにしゃべりまくるのって、すんごい久しぶり‥‥
カンクロウって、聞き上手だなあ。
でも私もどうして、こんなに次々話したいことが出てくるのか不思議‥‥
これでお別れなんかやだなあ‥‥』
って意外とおしゃべりじゃん。
まあ話してると、ころころ表情が変わっておもしろいから、いいんだけど。
コイツといると、殺伐とした任務のことなんか忘れちまうな。
忍者には絶対いないタイプだからな。
このどんくささは、あり得ないじゃん』

ずっと続くように思われた帰路も、ついに終点。
「ありがとう、今日は本当に楽しかった。」
「ああ、おれも楽しませてもらったじゃん」
「あ、あのね」

「なに?」
とカンクロウ。
「ま、また、会ってくれる?」
下を向いていても赤くなっているのがわかる。
「何か、変なことばっかしゃべっちゃったような気がするんだけど、カンクロウといると、すごく安心して‥‥
口が勝手に動いちゃうんだもの。
だから、もし、よかったら、また会ってほしいの。」
これだけ言うのにどれほどの勇気がいったのだろう。
バッグを持つ手が白くなるほど握りしめられている。
「‥‥なんだよ、もう会わないつもりでいたのか。
俺はもともと、 の今後をずっと見とく気でいたんだけどな。」
すっと、カンクロウは人さし指を出すと、今のカンクロウのことばを聞いて上を見た の額を軽く弾いた。
「一般的に言えば、『つきあってくれ』ってヤツじゃん」
かあああああっ。
今日一番の大赤面の
「‥‥ のことだって、お前がおれに気が付く前から知ってたんじゃん。」
そういえばカンクロウは一番最初に出会った時に、 がいつもこの道を通ってることを知っているといっていた。
「ま、よろしくな、 ちゃん」
ニヤッと笑うと、素早くほっぺたにチュッ。
「!!!!!!!!!!」
「またイヤホン、絡まったらたすけてやるじゃん。じゃな。」
茹でタコになった をおいて、あっと言う間にカンクロウは姿を消した。
「忍者って‥‥油断大敵だわっ!
ヒ、ヒトに告白させといて、自分はあとから、なんてさっ」
ショックから立ち直ると は一応、文句の一つもつぶやいたのであった。
けれどほほに手をあてて立ち尽くす姿からは、何も言わなくても嬉しさがこぼれていた。

 

閉じてお戻り下さい

 

蛇足的後書:タイトルこじつけな気も大いにします‥‥スイマセン、ヒロインが学生だからってことで。
ああ、別に高校生でなくてもよかったんだ、大学生でも、でもそしたら裏へ走りそうなんで(汗)。
どんくさいヒロインのドジエピソードはほとんど身に覚えがあったりする管理人です‥‥