砂塵が吹き荒れる砂丘に俺たちはいる。
4代目風影つまりは俺たちの父といっしょに。
正確には彼の灰を入れた壷を手にして。
厳然と人を容易に寄せ付けなかったあの風影が、なんという軽さだろう。

父の風影としての資質を問う酷評は今も好むと好まざるとに関わらず漏れ聞こえてくる。
それでも砂の里長の葬儀は慣例に乗っ取りしめやかに執り行なわれた。
そして彼の亡骸は忍びの里の掟に従い、骨の形もわからぬまで焼き尽くされた。
その灰をさらにこの広大な砂原にばらまく。
生きた痕跡をあとかたもなく消滅させるために。
この里に墓はあっても、里長を頂点とする上忍や秘術を操るものの遺骸は墓標の下に埋められることはない。
‥‥盗掘され悪用されるのを避けるためだ。
母の遺骨もやはりこの砂原に散ったという‥‥父の手によって。
彼女は別に特別な忍びであった訳ではない。
ただ、特異な子供を宿した事はたしかで、そんな理由から遺体が狙われるのを嫌った彼が決めたと言う。
そして今、父も母のところへと向かう。

「おい、この辺で撒くじゃん」
「‥‥ああ」
「お別れだな」

今日はことさら風が強い。
俺たちは一気に壷を逆さにする。
灰は、地面に舞い落ちる間もなく強風にさらわれ、同じように吹き上げられた砂と混ざりあって
あっという間に俺たちの前から姿を消してしまった。
砂の忍びは涙を見せはしない。
たとえ心が泣き叫ぼうとも。

茫々たる砂漠。
見渡す限りにひろがる砂丘、また砂丘。
動き出した砂のせいで辺り一面がかすんで太陽も空も地面とほとんど見分けがつかない。
方角は愚か、時間も定かでなくなる。
砂嵐だ。
慣れっこになった俺たちは一かたまりになり、ひたすら荒れ狂う怪物が去るのを待つ。
その時。
一瞬空気が止まった。
砂の見せた幻影?
いや、そうではない、俺たちは何も見ていない。
ただ彼らの存在を強く感じた。
風影ではなく、風影の妻ではなく、彼ら自身を。
里のためと言う重圧から解き放たれ、自由になった二人を。
自らの意志を継ぐものにあとを託せた安堵感を漂わせた彼らを。

突然目の前が真っ白になった。
急に差し込んだ太陽の光が砂嵐がやんだ事を告げている。

「‥‥さあ、行くぞ」
一番にきびすを返し、帰路へつく我愛羅の背中を俺たちは追う。

ここは砂隠れ。
風と砂嵐の吹き荒れる忍びの里。
一見砂ばかりで何もないようにしか見えない。
しかしその砂漠の下には脈々と太いカナルが流れていて、最後には海へと注ぐ。
砂の忍びの意志も同じ事。
乾いた大地の下に流れる絆は目に見えない涙を飲み込み、太い水脈となり、やがて大河となって海へと続くのだ。

閉じてお戻り下さい。

蛇足的後書:ちょっと時代錯誤的に(汗)。
我愛羅達がはたしていつ、彼に守鶴を取り憑かせたのが父ではなかったのかを知ったかは不明ですが、MY設定では中忍試験後だろうと。
でなきゃサスケ奪回編でナルトを助けに行ったときのあの様変わりはなかろう。