彩り
新入社員の は、住み慣れた街とは似ても似つかぬ都会へ転勤になったばかり。
オフィスでは右も左もわからず、上司も同僚も初めて見る顔だらけ。
でも、ここでくじけちゃだめ、なめられちゃいけない。
弱い心を見られまいと濃い化粧をして外の世界にバリアを張る。
「お先に失礼します」
「お疲れさま」
一歩会社から外へ出た途端どっと吹き出す疲労感を肩に、
は重い足を引きずって電車に乗った。
カタン、カタン、カタン
乗り合わせてる人が皆、灰色にみえる‥‥。
駅に着く。
マンションへの寂しい帰り道を思い、さらに心が萎縮する。
他人のふきだまりのウイークリーマンションが
の現在の我が家。
日中の仕事で張りつめた心をほぐす場所にはほど遠い。
かといって、まだ街中で遊んで帰る余裕もなければ、友人もいない。
ため息ひとつ、のろのろと家へ向かう。
「またタバコすってるわ‥‥」
線路沿いの道は悪ガキのたまり場だ。
行き場のない少年達が3人、4人と固まってだべったいる。
うわさによると、クスリの売買も行われているとか。
今すってるのだって、タバコだかヤクだかわかったもんじゃない。
目を伏せて知らん顔して通りすぎる。
年が若くても、服装が違っても、車中の灰色軍団となんらかわりゃしない。
‥‥きっとあの子達の目には私も同じような灰色に見えてるに違いない。
そんなある日、道にみなれない4人組が出現した。
服装も背格好も、いつもたむろしてる連中とさして違わないのに、漂わせている空気が違う。
気になりながらも見ない振りをして足早に通り過ぎる。
どうせ明日にはいなくなる、他の連中だって日替わりだもの。
けれどそのグループは、次の日もそこにいた。
その次の日も。
なんだか連日見るうちに顔なじみみたいな気がしてきて、彼らの姿を見かけるとほっとするように。
そっと観察すればそんなに悪そうでもないし‥‥
残業で遅くなったりした時は、特に。
駅からほんの5分ほどしかない帰路なのだけれど。
そうこうするうち、仕事にもなれてきた
。
今日は仕事で上司に褒められた。
マンションにも顔見知りが一人、二人とできてきて、少しずつ居心地が良くなって来た。
カタン、カタン、カタン
電車から見える路上にまた今日もいる、あの4人組。
なぜそんな事をしたのか、
は自分でも分らなかったけど、通りすがりに連中に軽く会釈した。
意外にも一番でかい男から会釈が返って来た。
改めて顔を見返して、そのド派手なフェイスペインティングに仰天する。
いつも薄暗がりでぼんやりとしか見てなかったので、気がつかなかったんだ。
が。
「
さん化粧濃いんじゃね〜の」
いきなりジャブ。
「あ、あんたに言われんの?」
濃い隈取りしてるアンタに、と思わずカウンター。
ニヤニヤ笑う男。
ちょっと待て。
「なんで私の名前わかんのよっ」
「社員証つけたまんまだぜ」
げっ‥‥
大慌てて名札をむしり取る。
「‥‥カンクロウ、任務中に気を散らすな」
低い声が、一番小柄でこれまた2カ所も顔にタトゥーを施した少年から聞こえて来た。
「またな、ねーちゃん」
キャップをかぶったもう一人の少年がフーゼンガムをかみながら否応無しに立ち去るよう促す。
黙ってこっちを見てる体格のいい少年も頷く。
なんなのよ、このタトゥー集団?!
任務って?
なんとなく納得できないながら、有無をいわせない雰囲気にその場を後にする。
ちらっと振り返るとその隈取り男がこっちを見て笑ってる。
かっと顔が熱くなって、思わずヒール音を響かせてマンションに駆け込んだ。
カンクロウっていってたな‥‥
何よ、どうでもいいじゃない、どうせただのごろつきじゃない。
‥‥正直そうは思えないけど‥‥
翌朝、麻薬を密売してた組織が検挙されたと報道があった。
連中が任務、っていってたのが気になった。
まさか、彼らもかんでたんだろうか。
このあたり一帯の名前も出勤前のニュースで耳にしたから。
電車に揺られて、他人のゴシップ新聞を覗き見しても、残念ながら立役者の名前なんか記載されてないし。
あれから‥‥もう2週間。
あの日を境に彼らは現れなくなってしまった。
やっぱり関係してたんだ。
仕事は順調で、同期にも仲良しが少しづつ増えて来て、毎日に色彩が戻りつつあった。
だからこそ、あの日から、帰り道に彼らがいない事がよけい寂しい‥‥
正確には、あの、カンクロウとかいう奴が。
ガードする間もなくするっと心に入り込んでしまって、そのまま居座ってる。
‥‥本人は姿を消してしまったってのに。
カタン、カタン、カタン
線路は例の道沿いを走って
の最寄り駅へと向かう。
いつもここに立ってたのよね。
ぼんやり車窓に流れる景色を見るともなく、見ないともなく。
桜の紅葉が秋の深まりを告げる。
‥‥本物の景色がきれいになったら、心の中はモノトーン、か。
駅に近づいた電車がスピードを落としたその時。
‥‥‥金網越しに見覚えのある後ろ姿が見えた。
はっとして、思わず窓にはりつく。
一人しかいないけど、絶対そうだ!
駅から猛ダッシュで彼が立っていた場所に向かう。
パンプスのヒールがうとましい!
彼のいるところまでの道が遠く感じられた事、‥‥ほんの数分のはずなのに!
たどり着いた時にはぜいぜいと肩が上下して言葉も出てこない。
金網にもたれていたカンクロウがそんな
を見て言った。
「コンバンハ、
さん、今日は化粧薄いじゃん」
チカチカッといたずらっぽく緑の瞳が光る。
今日は隈取りしてない‥‥
ドキン、と鼓動がひとつ。
の心の中で火花がはじけて導火線に火がついた。
*閉じてお戻り下さい*
蛇足的後書:アニナル見てない方にはなんのこっちゃ、でしょうね、すいません〜、でもどうしても書きたかった、形に残したかったのさ!
ちなみにフォーマンセルの面子はカンクロウ、我愛羅、キバ、チョウジです。